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仮操業

たたかいのきろく

なあ、俺は今、陸の孤島みたいなところにいる。
お前が「おい見ろよ、こんなところにも医学部がある」なんて全国の大学一覧を見せられて、一緒になって笑っていた、まさにその大学にいるよ。



高校1年まで俺は地道に勉強する子供で、このまま行けばだいたいどこの大学にも入れる、程度の成績だった。でも高1の三学期に突然、俺はもう勉強しない、と決心してしまった。

時々、どうしてあのまま続けなかったのだろう、と思う。
そして、あのまま続けることができたときの俺であるところの、お前に話しかけたくなる。


小学一年の頃から、毎朝六時に起きて勉強していたのだった。公文式の算数。夜は国語だ。
朝はたたき起こされたし、夜は終わるまで寝かせてもらえなかった。
公文式というのは学年に関係なく進むので、15分で終わることもあれば、2,3時間かかることきもある。何学年先の問題かもよくわからない問題を、必死になって解いた。
習い事はそれだけではない。水泳、体操、ピアノ、英語、冬はスキー。ほぼ毎日だ。

地方都市の普通の小学生で、それだけタイトなスケジュールの小学生は他にいなかった。いたのかもしれないけれど、少なくとも俺の周りにはいなかった。
たまに習い事のない日に、友達と遊ぶ。皆仲良くはしてくれるのだけど、どうしてもお客さんの気分になってしまう。共有している時間が圧倒的に少ない。

習い事に行った先でも、肩身が狭かった。水泳にしてもピアノにしても、最初こそそれなりに上達するものの、後は全く上手くならない。全員1000メートル泳げと言われて、どんどん他の子供に追い抜かれる。最後は俺1人しか泳いでいない。他の子供は俺が泳ぎ終わるのを待っている。900メートル位泳いで、なんとか何食わぬ顔を作って泳ぐのを止める。その時の屈辱と言ったら!

ある日、小学生の俺はストライキをすることに決めた。夜に宣言をした。他にこれだけ勉強や習い事をしている人はいない、僕はもう止める。宣言は受け入れられたかに見えた。

ところが翌日、毎朝六時になるはずの目覚まし時計が、五時半に鳴るではないか。
びっくりして飛び起きると、机に張り紙がしてある。「昨日の分からやること。」
絶望してから、昨日の分の勉強を始めた。なんて無力なのだ、自分は。

時間は流れて高校1年の3学期。模試でそれまでで一番良い成績で、校内で4位だった。でも3位までの人は全国ランキングに名前が載っているのに、4位の自分は載っていない(それ位の高校だ)。何とか次回は名前を載せよう、そう思って勉強の計画を練りなおしていたその時、突然、決心がやってきた。
もう、やめだ。

多分俺は、自分でも気づかずにボイコットする機会を虎視眈々と狙っていたのだ。
以降、まじめに勉強するしか能のなかった自分は、まじめにボイコットした。
成績は直線的に下降し、3年の終わりにはきれいに学年の下から10番くらいに収まった。

その下降ぶりを見て、母親は怒り狂い、父親は急須を投げつけ、飛び散った。でも、母親との二人三脚はもう限界だった。

ある日、学校から家に帰ると、母親が狂ったように俺の部屋の教科書以外の本をゴミ袋に入れている最中だった。「こんなものばかり読むから勉強しなくなった!」。話し合いの結果ゴミ袋がゴミ捨て場に行くことは免れた。まあ、ある程度、母親も芝居だったのだとは思うが。

自分なりに限界だった訳ではあるが、それでも時々、なぜあのままできなかったのだろうと思う。
仮にあのまま医学部に進んだとして、今は四年目だ。仕事もそれなりに出来るようになっている頃だろうか。あるいはやっぱりドロップアウトして、隅っこで顕微鏡を覗くような仕事をしているかもしれない。そして短歌の投稿などしたくなっているのだ、多分。


なあ、どうだ、そっちの生活は。それなりに満足しているのか?それとも、やっぱり不本意を燻らせているのか。
俺は最近、お前に届くように歌いたいと思うんだ。
なぜだかお前はやっぱり不本意に思っていて、そして言葉を求めている気がするのだ。

その方法が短歌なのかどうかはまだ分からない。単にラッキーパンチを幾つか出せただけなのかもしれない。
でも、お前、見ていてくれ。俺は歌う。
そうじゃなければ、こんなところで燻っている理由が、ないじゃないか。
by tundok | 2005-01-21 23:01 | 雑文